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10.302024
収容を巡る諸問題解決のための令和5年入管法等改正について

※「出入国管理及び難民認定法」については、以下「入管法」と記載します。
1 日本の出入国在留管理制度の概略(出入国在留管理庁HPより)
⑴ 公正な出入国在留管理
外国人を日本の社会に適正に受け入れ、日本人と外国人が互いに尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会を実現することは非常に重要ですが、どんな人でも入国・在留が認められるわけではありません。
例えば、テロリストや日本のルールを守らない人など、受け入れることが好ましくない外国人については、入国・在留を認めることはできません。
そのため、日本では、法律に基づき、来日目的等を確認した上で、外国人の入国・在留を認めるかどうかを判断することとしており、入国・在留を認められた外国人は、認められた在留資格・在留期間の範囲内で活動していただく必要があり、その在留資格を変更したいときや、在留期間を超えて滞在したいときは、許可を受ける必要があります。
以上のように、日本では在留資格・在留期間等の審査を通じて、外国人の出入国や在留の公正な管理に努めており、このように、その国にとって好ましくない外国人の入国・在留を認めないことは、それぞれの国の主権の問題であり、国際法上の確立した原則として、諸外国でも行われています。
⑵ 外国人の退去強制
日本に在留する外国人の中には、ごく一部ですが、他人名義の旅券を用いるなどして日本に入国した人(不法入国)、許可された在留期間を超えて日本国内に滞在している人(不法残留)、許可がないのに就労している人(不法就労)(※)、日本の刑法等で定める犯罪を行い、実刑判決を受けて服役する人たちがいます。
(※)これらの行為は、入管法上の退去を強制する理由となるだけでなく、犯罪として処罰の対象にもなります。
そのようなルールに違反した外国人については、法律に定める手続きによって、原則、強制的に国外に退去させることにより、日本に入国、在留する全ての外国人に日本のルールを守っていただくように努めています。
もっとも、退去させるかどうかの判断に際しては、ルール違反の事実のほか、個々の外国人の様々な事情を慎重に考慮しており、例外的にではありますが、本来退去しなければならない外国人であっても、家族状況等も考慮して、在留を特別に許可する場合があります(在留特別許可)。
その許可がされなかった外国人については、原則どおり、強制的に国外に退去させることになります。
⑶ 難民の認定
日本は、1981年に「難民の地位に関する条約」(難民条約)、1982年に「難民の地位に関する議定書」に順次加入し、難民認定手続に必要な体制を整え、その後も必要な制度の見直しを行っているところです。
日本にいる外国人から難民認定の申請があった場合には、難民であるか否かの審査を行い、難民と認定した場合、原則として定住者(※)の在留資格を許可するなど、難民条約に基づく保護を与えています。
(※)定住者は、いわゆる就労目的の在留資格と異なり、就労先や就労内容に制約はありません。
難民には該当しない場合であっても、法務大臣の裁量で、人道上の配慮を理由に、日本への在留を認めることもあります。
なお、ここでいう「難民」とは、人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見という難民条約で定められている5つの理由のいずれかによって、迫害を受けるおそれがある外国人のことです。
今回は、「⑵ 外国人の退去強制」に関連する収容を巡る諸問題ついて掘り下げます。
2 収容を巡る諸問題について
令和5年改正前の入管法では、退去すべきことが確定した外国人については、原則として、退去までの間、収容施設に収容することとなっていました。
そのため、外国人が退去を拒み続け、かつ、難民認定申請を誤用・濫用するなどの事情があると、退去させることができないことにより、収容が長期化しかねないという状況がありました(出入国在留管理庁HP「難民認定制度の現状」)。
収容が長期化すると、収用されている外国人の健康上の問題が生じたり、早期に収容を解除されることを求めた拒食(ハンガーストライキ)や治療拒否など、収容施設内において、様々な問題が生じる原因となりかねませんでした。
令和3年3月6日、名古屋出入国在留管理局の収容施設に収容されていた被収容者(30歳代女性、スリランカ国籍)が、死亡する事案が発生しました。
出入国在留管理庁は、本件事案の発生を重く受け止め、出入国管理部長を責任者とする調査チームを発足させ、法曹関係者や医療関係者等の外部有識者の協力を得ながら調査を行い、調査結果を報告書に取りまとめました(出入国在留管理庁HP「名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告(概要)」)。
3 収容を巡る諸問題解決のための令和5年入管法等改正の概要
令和5年改正前の入管法下においては、収容の長期化を防止するには、「仮放免」制度を活用するしかなく、この制度はもともと、健康上の理由等がある場合に一時的に収容を解除する制度であり、逃亡等を防止する手段が十分ではありませんでした。
これらの収容を巡る諸問題解決のための方策を講じるべく、令和5年6月9日、第211回通常国会において「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律」が成立し、同月16日に公布、令和6年6月10日に施行されました(令和5年法律第56号)。
具体的な内容は以下のとおりです。
⑴ 収容に代わる「監理措置」制度の創設
親族や知人など、本人の監督等を承諾している者を「監理人」として選び、その監理の下で、逃亡等を防止しつつ、収容しないで退去強制手続を進める「監理措置」制度が設けられました(入管法第44条の2、第52条の2)
「原則収容」である現行入管法の規定を改め、個別事案ごとに、逃亡等のおそれの程度に加え、本人が受ける不利益の程度も考慮した上で、収容の要否を見極めて収容か監理措置かを判断することとされました。
監理措置に付された本人や監理人には、必要な事項の届出や報告を求めますが、監理人の負担が重くなりすぎないように、監理人の義務については限定的にしました。
収容の長期化を防止するため、収容されている者については、3か月ごとに必要的に収容の要否を見直し、収容の必要がない者は監理措置に移行する仕組みを導入しました。
改正前の入管制度は、「全件収容主義」などと言われることがありましたが、改正法では上記のように、個別事案ごとに収容か監理措置かを選択することとなり、これにより、「全件収容主義」は抜本的に改められることとなりました。
⑵ 仮放免制度の在り方の見直し
令和5年改正後の入管法第54条は、仮放免制度について、次のとおり規定しています。
1 収容令書若しくは退去強制令書の発付を受けて収容されている者又はその者の代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、法務省令で定める手続により、入国者収容所長又は主任審査官に対し、その者の仮放免を請求することができる。
2 入国者収容所長又は主任審査官は、前項の請求により又は職権で、収容令書又は退去強制令書の発付を受けて収容されている者について、健康上、人道上その他これらに準ずる理由によりその収容を一時的に解除することを相当と認めるときは、法務省令で定めるところにより、期間を定めて、かつ、住居及び行動範囲の制限、呼出しに対する出頭の義務その他必要と認める条件を付して、その者を仮放免することができる。
1~7(略)
8 入国者収容所長又は主任審査官は、第一項の請求の理由が健康上の理由である場合には、医師の意見を聴くなどして、収容されている者の治療の必要性その他その者の健康状態に十分配慮して仮放免に係る判断をするように努めなければならない。
監理措置制度の創設に伴い、仮放免制度については、本来の制度趣旨どおり、健康上又は人道上の理由等により収容を一時的に解除する措置とし、監理措置との使い分けを明確にしました。
特に健康上の理由による仮放免請求については、医師の意見を聴くなどして、健康状態に配慮すべきことを法律上明記しました(入管法第54条)。
⑶ 収容施設における適正な処遇の実施を確保するための措置
常勤医師を確保するため、その支障となっている国家公務員法の規定について特例を設け、兼業要件などを緩和しました。
その他、収容されている者に対し、3か月ごとの健康診断を実施することや、職員に人権研修を実施することなど、収容施設内における適正な処遇の実施の確保のために必要な規定を整備しました。



